『ウロボロスの波動』林譲治

 新年一冊目は積読処理から。数百年後、人類は小型のブラックホール天王星の衛星軌道に捕らえ、人工降着円盤としてエネルギーを取り出すことに成功する。物語はそのブラックホールの開発のために発足した組織「AADD」に所属する人々を中心に織り成される。地球というくびきにとらわれることのなくなった人々は、明らかにその思考方法、人生観を変貌させていく。
 短編連作。「エウロパの龍」がお気に入り。あとは「ヒドラ氷穴」かな。表題作は微妙だった。最後の「キャラバンの翼」はどうだろう、展開や志向する方向は好きなんだけどしっくりこない。巻末、解説で小川一水が、しっかりと組織を描けていると評していたけれど、逆説的には組織とそれに所属する人々の属性は構想できているけれど、人は描けていないと思った。それほど作中のキャラクターが埋没している。もっとも印象的な人間としてラミアを挙げることはできるけど、彼女はあくまで「地球」の人間であって、評価に値しない。黒川なんかは面白いと思ったけれど(だからこそ彼が主役の「エウロパの龍」が気に入った)掘り下げが足りない気がする。というか日本人が多すぎなのがちょっと納得いかなかった。なんかせこい! と思ってしまうのは私の心がせせこましいからでしょうか。
 ただ発想はとても面白いと思った。なんといっても人工降着円盤の発想が秀逸。人類のエネルギー問題の解決方法としての説得力がしっかりとあった。軌道上の巨大建造物と惑星、衛星がすれちがうタイミングとかとてもダイナミック! 対消滅のエネルギー抽出方法がおざなりだったのはまあ目をつむってもいいくらい。しかしこれは作者が後書きで書いてもいたけれど、確かにプロローグに過ぎない。ファーストコンタクトものなんだな。出版当時、記憶が確かなら野尻抱介「太陽の簒奪者」が同時期に上梓されていたけれど、ルネッサンスの時期なのかね。